「人は見たいものしか見ようとしない」これは、かの古代ローマ帝国のイケメン皇帝
カエサルの言葉である。
動物好きのKの目は、緑の田んぼに舞い降りた白い大きな鳥 がダイサギであることをすぐさま見て取った。
動物好きではあるが、ヘビやミミズや ムカデも含めて全ての動物が好きと言えるほど、
残念ながらKの心は広くなかった。
6月29日月曜日、今日は米三産地見学の最終日【山武ほたる米】の産地見学である。
正午まで1時間ほどというその時、Kは山武市の実門(さねかど)公民館そばにいた。
ここに足を運んだのはいったい何度目であろうか。前回来たのは田植えのため、ではなく田植えをした人にシュウマイを供するためであった。
そういえばあの日、アスファルトの上にペッタンコになった大きなムカデを見つけて戦慄したっけ、
と思い出さなくてもいいことを思い出し、Kはちょっと後悔した。
まぁ今日は田んぼの回りに行くだけだからムカデに遭遇することはないだろう、
ムカデは田んぼにはい ないはず、と自分に言い聞かせ通い慣れた(?!)畦道(あぜみち)を進む。
我々25名の見学者のため、生産者が、この畦道の草を刈っておいてくださったのだそうだ。
歩き易くなった100mほどの畦道を行く間、左右の田んぼにはたくさんの生き物を見ることができた。
カエルにオタマジャクシ、トンボ、アメンボ、タニシ、ゲンゴロウ・・・。
なんと水がきれいな所にしか生息しないと言われる、ホタルもこの実門地区では観察 できるのだ。
「農薬の空中散布を止めてから、ホタルが戻ってきた」という生産者の言葉に参加者一同「ナルホド?」とうなづくことしきり。
ホタルが生息してい る地域でとれるから【山武ほたる米】きわめて明快なネーミングである。
ここで、ホタルは真昼間には観察できないことを断っておく必要があろう。
Kがホタルを見たの は去年のことである。
実門地区の田んぼは一枚一枚が不規則な形をしていて、農機具を入れるのも大変である。
旭あいのう米や印旛そんごくう米の田んぼはかなりきっちり直線的に整備され、車も田んぼの脇までつけられるようになっていた。
それに比べると山武ほたる米の産地では、隣の田んぼに行くのもひと苦労。
ホタルが観察できる小川まで行ってみようと、簡単に言いはしたものの、草刈のされていない細い畦を歩くのは、
都会人たちにとっては難儀なことである。涼しげな澄んだ水の流れる小川を見て納得した参加者は、
実門公民館へもどる道を辿った。
しつこいようだがホタルは夜にしか観察できないのだ。
公民館まであと少しのところで、すぐ前を歩く人の「あら大きなミミズ」という言葉に、
Kは慌てて視線を足元から遠くへと移した。
「ああいう立派なミミズが良い土を作ってくれるのよね??」と同意を求められたが
「え?そんなに大きかったの?見てないからわかんないわ」とKはしらを切った。
嫌いな物をわざわざ探すこともあるまい。
帰りのバスの中での参加者からの声を拾ってみよう。
「手間隙かけて美味しいお米が作られているのがよくわかった」
「空気が美味しくて、心が洗われた」
「あそこでバーベキューしながらビールを飲みたい」
「山武杉がとても美しかった」
「美味しい水と美味しい空気で作られたお米はきっと美味しいに違いない」・・・そして極めつけの
発言がなされる。
「カエルやトンボなどの生き物が本当にたくんさんいて、農薬があまり使われていないのが良く
わかりました。
本当は足元にヘビもいたのですが、それを皆さんに知らせると大騒ぎになると思い、だまっていました」・・・・。
さすがローマのインペラトールの言葉は的を射ているな、と冒頭の文句を思い出しつつ、
Kは日本の原風景のような【山武ほたる米】の産地を後にしたのであった。
(written by K)




